大内裕和中京大教授の「奨学金本」にあらたな疑問点発覚 ーー回収手順の無理解か、それとも意図的なごまかしかーー

 中京大学教授・大内裕和氏の著作『奨学金が日本を滅ぼす』(2017年、朝日新書)に筆者三宅の著作(『日本の奨学金はこれでいいのか』第2章、あけび書房2013年)からの盗用・剽窃が濃厚に疑われ、現在、朝日新聞出版や中京大の調査が行われている問題で、大内本にあらたな疑問点があることが発覚した。

 問題の箇所は『奨学金が日本を滅ぼす』の80P、延滞債権の回収が強化されているという部分の次の一節だ。

 〈それでも滞納が続くと、9ヵ月目には裁判所に支払い督促の申し立てが行われます。〉

 「奨学金ローン」の返還を滞納して9ヵ月目に入ると支払い督促という法的手続き(一種の裁判)を起こされるとの記述だ。

 奨学金ローン回収や対応の実務に通じている者ならすぐに首を傾げることだろう。筆者も疑問を禁じ得なかった。どんなに回収を急いだところで、日本学生支援機構が公表している回収方法では、「9ヵ月目」の支払い督促申し立てはあり得ない。

 つまりこういう仕組みである。
 
 支払い督促の申し立てには、一括繰り上げ請求をしていることが大前提となる。

 奨学金ローンは、20年以内に年賦または月賦で返還するよう法令で決まっている。一般のローンとは仕組みが異なる。一般のローンは、分割払いは「期限の利益」の特約によってはじめて可能となる。延滞した場合はこの「期限の利益」を喪失して一括請求される旨、契約書に明記している。
 
 奨学金ローンには「期限の利益」の概念がないので、遅れたとしても、まだ返還期日がきていないものまで前倒しで請求することはできないーーはずである。ところがじっさいには返還期日未到来のものまで一括で繰り上げて請求する、いわば貸しはがしが頻繁に実行されている。その際、日本学生支援機構が使っている根拠が、日本学生支援機構法施行令5条5項(旧4項)だ。

 同項には「支払能力があるにもかかわらず」という前提条件が記載されているが、そんなことは完全に無視して、「延滞9ヵ月以上」で連絡や返還猶予の手続きをしない利用者に対して、乱発している。違法性がきわめて高い回収である。

 

 支払い督促申し立ては、この一括請求をした後でなければ手続きのしようがない。

 一括請求は日本学生支援機構から利用者に対する通知文で行われ、通常、支払い期限を約1ヶ月後に設定される。月々の1万5000円や2万円の返済が滞っている人に300万円とか400万円を1ヶ月後に耳をそろえて返せ、と迫る。それで払えなければ支払い督促を裁判所に申し立てるという流れである。

 つまり、どんなに早くやっても延滞10ヶ月以降の支払い督促申し立てなのだ。一括請求がなければ支払い督促はやりたくてもできない。

 〈それでも滞納が続くと、9ヵ月目には裁判所に支払い督促の申し立てが行われます。〉という大内氏の記述は、したがって明らかに誤りである。上に述べた一括請求という違法な取り立ての段階があることを理解していないか、そうでなければ意図的に無視しているとしか考えられない。

 奨学金問題対策全国会議という市民団体の代表でありながらこうした重要な部分に誤りのある著書を出すというのは、いったいどうしたことか。
 
 
 なお、9月8日付で、大内氏に以下の質問をメールで送った。

  同書80ページに「それでも滞納が続くと、9ヵ月目には裁判所に支払い督促の申し立てが行われます。」との記述があります。日本学生支援機構が私に回答した内容では、9ヵ月以上延滞した場合に一括繰り上げ請求を行うとのことです。支払い督促の手続きは一括繰り上げ請求(支払い期限は通常約1ヶ月)の後に支払いがないことを踏まえて行われるものですから、論理的には最短でも延滞から10ヵ月はかかる計算です。

 つきましては、「9ヵ月目には裁判所に支払い督促の申し立てが行われます」との記述は、どのような根拠によるものなのでしょうか。また、支払い督促の前に一括繰り上げ請求がなされていることを明記していないのはなぜですか、それぞれご説明願います。

以上