ジャーナリストはつらいよ ――奨学金問題ムラはなぜ私を村八分にしたのか――(3)

 いうまでもないことかもしれませんが、日本の政治制度において、教育の機会均等は憲法によって保障されています。
 
  憲法第14条第1項 は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」、第26条第1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しています。これらに基づいて教育基本法第3条は次のように定めています。

第3条 (教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

2 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

 旧日本育英会、現在の独立行政法人日本学生支援機構の「奨学金ローン」は、これら憲法や教育基本法が政府に義務づけた教育の均等を保障するための公的制度といえます。無償の学費提供を意味する「奨学金」ではないのはもちろん、ふつうのローンとも違うのは当然です。

 さて、そうした学生ローンたる日本学生支援機構の奨学金ローンの特徴は、すでに(2)で述べたとおり、延滞したとしても、まだ支払い期日がきていないものまでまとめて一括請求することができない点にあります。

 基本的な関連法令は次のとおり。
 
日本学生支援機構法
第15条1項
 学資金の返還の期限及び返還の方法は、政令で定める。

(以下略)

日本学生支援機構法施行令
第5条1項
 法第14条第1項の学資貸与金(以下単に「学資貸与金」という。)の返還の期限は、貸与期間の終了した月の翌月から起算して6月を経過した日(第3項において「6月経過日」という。)以後20年以内で機構の定める期日とし、その返還は、年賦、半年賦、月賦その他の機構の定める割賦の方法によるものとする。ただし、学資貸与金の貸与を受けた者は、いつでも繰上返還をすることができる。 

(以下略)

 期限の利益という言葉はここにもありません。借り入れや返還の手続き書類、学生支援機構の案内などどこをみても「期限の利益」はありません。返還期限がきていないものを前だおしして請求できないことは、これらの事実からも明らかです。

 ですので、返還をはじめて2年めとか3年め、あるいは10年以内といった、比較的若い方が学生支援機構から何百万円もの一括弁済を求めて訴訟を起こされるなど、あり得ないものだと私は従来考えてきました。私が「奨学金ローン」の問題についてはじめて取材をしたのは2010年ごろですが、当時は、事実、返還期日未到来のものを請求するような例は見たことがありませんでした。

 おかしなことがされている、と気づいたのは2013年のことです。後に私を排除することになる「奨学金問題対策全国会議」を設立するという話があり、その準備を進めていた弁護士らから共著執筆の協力を求められたのです。これを私はいったん断りました。すでに過去に記事を書いていて、その焼き直しのようなものを書くのは気が進みませんでした。多忙だったこともあります。

 それでもどうしてもと懇願され、しぶしぶ引き受けたといういきさつです。書くからには最新の状況を調べる必要があると考え、情報公開や裁判所にいって記録を漁るといった作業をやりました。その中で見つけたのが「一括繰り上げ請求」だったのです。

 それまで、当然のこととしてありえないと思いこんでいた、若い人への訴訟がたくさん起きていたのです。明らかに返還期日未到来のものが多数、何百万円も残っている人が、前倒しして一括請求されている。なぜそんなことができるのか、「期限の利益」というものがないのに、ありえないじゃないかと疑問に思って支援機構の訴状を読んでみると、こう書かれていたのです。

 〈日本学生支援機構法施行令5条4項によれば、著しく返還を怠った場合は返還期日未到来のものも一括で弁済を求めることができる。この規定により請求したが支払いをしなかった〉(趣旨)

 日本学生支援機構法施行令5条4項(現在は5項)を根拠に貸し剥がしをしたというのです。そんな規定があるとはこのときまで知りませんでした。そこで、自宅にもどってから条文を確認してみて、あらためて驚いたのです。

 正確な条文はこうです。

 
日本学生支援機構法施行令5条4項(現在は5項)
〈学資貸与金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるときは、前各項の規定にかかわらず、その者は、機構の請求に基づき、その指定する日までに返還未済額の全部を返還しなければならない。〉

 「支払い能力があるにもかかわらず」との前提条件があるではありませんか。私が訴訟記録から知った事例は、すべて明らかに支払い困難に陥った人たちでした。なかには、難病で思うように働けず、収入が乏しいと訴えている例や、サービサー(債権管理回収業)に調査をさせて、支払い困難であることを把握している例もありました。

 これは大問題ではないかと私は驚き、前述の共著『日本の奨学金はこれでいいのか!』の原稿で書いたのです。本は「奨学金問題対策全国会議」の設立直前に出版されました。同会の内部や同会が開いた催しで、私が「一括請求」問題について発言するのは当然のことでした。

(つづく)
・ジャーナリストはつらいよ1
・ジャーナリストはつらいよ 2

東京都、東京五輪中止・延期のリスク計算文書は「不存在」

 災害などで東京五輪が中止になったり延期された場合に都が被る財政負担などのリスクを計算した文書はあるのか――筆者がこうした内容の情報公開請求を東京都に対して行ったのは4月下旬のことだった。

 2ヶ月後の6月29日付でようやく決定通知が届いた。
 
 「作成および取得しておらず、存在しない」

 それが回答であった。にわかに信じがたい行政である。

ジャーナリストはつらいよ――奨学金問題ムラはなぜ私を村八分にしたのか――(2)

 「奨学金」という日本語は、この国ではとてもあいまいな意味で使われています。本来は、学費を無償で提供したり、返還を不要とする資金援助のことをさす言葉です。イングランド語(いわゆる英語)でscholarship,grant などと言われるものです。

 ところが、日本では返還を義務付けられたものも「奨学金」と呼んでいます。利息がつくものが大半で、場合によれば延滞金もつきます。独立行政法人日本学生支援機構が行っている「奨学金」は、いわゆる学生ローンのひとつです。

 学生ローンは学生に対する貸付制度をさす一般名詞です。イングランド語でStudent loanなどと呼ばれています。世界各国で問題になっているものです。

 日本学生支援機構がやっている「奨学金ローン」だけでなく、地方自治体や大学がやっている貸付制度も、本来なら学生ローンとして、一般の金銭消費貸借契約と区別されるべきなのです。

 残念ながら、日本では、無償のものもローンも、ごちゃごちゃにしたまま「奨学金」と呼んでいます。

 なお、「奨学金はローンだ」という声をたまに耳にしますが、それも正確ではありません。私は、政府や支援機構が意図的にあいまいな言葉を好んで使っているのではないかと疑っています。

 支援機構のイングランド語の案内冊子には「Scholarship loans」(奨学金ローン)と書かれています。ですので、私は、「奨学金ローン」ということもあります。学生ローンとしての「奨学金ローン」という商品ということです。

 ともかく、奨学金では断じてないことはもちろん、ふつうのローン(金銭消費貸借契約)ともあきらかに異なる貸し付け制度なので、はっきり区別することが重要です。

 さて、日本学生支援機構の学生ローン「奨学金ローン」について、最大の問題だと私が思っているのが「一括繰り上げ請求」です。それを理解いただくには、もう少し説明が必要です。

 奨学金ローンは、在学中に月々数万円程度の資金を貸し付け、卒業後(退校後)、20年以内で「返還」するという制度です。ローンですが、通常のローンと大きな違いがあります。

 1 返済能力をいっさい考慮せずに数百万円の貸し付けが行われる
 2 「期限の利益」の概念がない=延滞した場合、全額一括返済をしなくてもよい。 

 最大の特徴はこの2点だと私は考えています。

 まず1について。

 ふつうの貸し付け(金銭消費貸借)の場合、かならず返済能力について審査が行われます。返済能力を超えて貸し付けることは法令で禁止されています。未成年や若年の学生は、返済能力がないか乏しいのがふつうですので、たとえば銀行や貸金業者に融資を申し込んだところで何百万円も貸してくれることはまずありえません。

 保証人を要求されるのが通常ですが、その保証人の返済能力も審査されます。
 
 奨学金ローンは、資金があるかどうかをいっさい調査せずに貸してくれる制度です。保証人をつけることもありますが、その場合も、保証人の返済能力は不問です。

 金がないのをわかっていて貸し付ける、ないことを前提に貸し付ける公的制度といえます。学問の機会均等を保障するというのが制度の目的です。

(つづく)
●ジャーナリストはつらいよ(1)
●ジャーナリストはつらいよ(3)

ジャーナリストはつらいよ――奨学金問題ムラはなぜ私を村八分にしたのか――(1)

★(文中、奨学金問題対策全国会議への筆者の入会時期を2014年と書いていましたが、2013年の誤りでした。お詫びするとともに訂正します)

 きょうから7月です。私は1年前の7月末に起きた出来事を思い出し、心穏やかではなくなってしまいました。忘れようとしていましたが、やはり、納得のいかない出来事は、時間がたったからといって解決するものではないようです。

 完全に個人的なものとも言い難い問題ですので、この場で報告することにしました。

 昨年7月31日、いわゆる「奨学金」問題に取り組むグループである「奨学金問題対策全国会議」(大内裕和・伊東達也共同代表)から、私は次のような「回答書」を受け取りました。

 〈・・・今回の再入会のお申し出については、残念ながらお受けできないとの意見が多数となり、他方、再入会を支持する意見がなかったため、当会議として、現時点では、再入会のお申し出をお受けすることができないとの結論に達しました・・・ 〉

 


 一読して私は、予想もしなかった内容に愕然としました。というのも、入会を拒否した理由が、私の非行などではなく(もちろんそんな行いはいっさいしていません)、純粋に「奨学金問題」に関する具体的な問題提起そのものにあったからです。

 別の機会にあらためて説明したいと思いますが、「一括繰り上げ請求」というとんでもない違法な取り立てが横行していることについて私は研究し、会としても取り組むべきであると訴えてきました。こともあろうに、そのことが入会拒否の理由でした。思想信条、しかも会の設立目的である「奨学金」問題について特定の意見をもっていることを理由に排除したわけです。

 おだやかでいられるはずがありません。

 なお、会は「一括繰り上げ請求」がどういうものか、私の意見をまともに聞く機会を一度ももっていません。回答書には、私と会の間に埋めがたい「溝」があると繰り返していますが、議論を尽くした上での溝などではなく、議論を避けつづける者が自分で掘った「溝」にしか見えません。

 じつは、私は同会が設立された2013年当時、準備をしていた事務局からの要請を受けて入ったメンバーでした。同会の名刺的な位置づけになる共著『日本の奨学金はこれでいいのか』(あけび書房)も出版しました。「一括り上げ請求」のことは同書の原稿を書く過程で発見しました。

 しかし、残念ながら同会の中心メンバーはこの問題に熱心ではなく、私の意見をまともに取り上げようとはしませんでした(共同代表の2人から、この問題についてどう考えているのか、見解が表明されたことは一度もありません)

 会は新聞テレビによくコメントしていますが、「一括繰り上げ請求」については今日にいたるまで一度も言及がありません。その影響もあって、新聞テレビに「一括繰り上げ請求」という言葉はいまだ一度も登場していないと思います。

 結果として日本社会における問題の認識はきわめて低く、深刻な被害を生み続けています。

 私は、自分自身が同会メンバーとの共著のなかで「一括繰り上げ請求」を告発した立場でしたので、同会がこの問題について何もしないことは、自分自身の責任でもあると考え、2015年末ごろにいったん退会しました。以後、「一括繰り上げ請求」について取り組むべきではないか、と会の外から働きかけを続けてきました。 

 問題に正面から取り組まない姿勢は相変わらずでしたが、それでも多少の影響はあったと思われ、昨年2019年夏の同会が発表した活動報告のなかに、簡単に「一括繰り上げ請求」の問題が記載されているのに気づきました。

 小さくてはあっても、ようやくこの問題に取り組む機運ができたようだ−−と私は喜びました。今後は会の中で他のメンバーとともに研究・告発をしたいと考え、再入会を申し出たのです。ちょうど1年前のことでした。

 会の規約には(前掲書の巻末に収録)、入会を希望するものは誰でも入れる−−旨あります。規約を公開しているくらいですから、広く市民に開かれた組織です。当然こころよく受け入れられると思ったのが間違いでした。しばらくたって送ってきたのが、冒頭で紹介した「回答書」でした。

(つづく)
●ジャーナリストはつらいよ(2) 、