参院選を目前にしてー孫崎享氏講演録(下)

 外務省元情報局長・孫崎享さんの講演(6月7日、八重洲ブックセンター)のメモを前回にひきつづき紹介したい。主流メディアにのりにくい貴重な見識を、一部の者たちの知識におわらせず、多くのひとたちで共有していくことが、いまの政治危機を克服するうえで欠かせないのだと思う。

孫崎享講演(上)

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(核の傘)についてーー
 
 重要な問題なので、田原(総一朗)さんが「説明しろ」というので説明したんです。核の傘とはなにか。われわれ日本の上空に傘があるわけじゃない。概念なんです。どういう概念かというと、

・中国ー日本との間でなにか問題がおこる。

・すると(中国が)日本に「あんたいうこと聞かないから核兵器撃つぞ」ということを言う。

・これに対して日本は、「いま私たちは中国から核攻撃すると脅かされている。だから助けてくれ」とアメリカに言う。

・そうするとアメリカは中国に対して「あんた今、日本を脅かしている。あなたがもしも日本に核兵器を撃つんなら、私たちはその報復として中国に核兵器を撃つ。それが嫌だったら日本に核兵器を撃つというセリフをやめろ」と。

・すると中国は「それじゃわかりましたと、核兵器を撃つのをやめる」

 ーーこれが核の傘なんですね。この概念がどういうときに機能しなくなるでしょう?

 それをやるんなら、われわれ(中国)は、ニューヨークやサンディエゴでもいい、アメリカの都市を撃ちますと、こう言われたら、日本を守るために、シアトルやサンディエゴやロサンゼルスを撃たれても平気だと言える大統領はいない。だから核の傘というのは基本的にない。というのがキッシンジャーなんです。

 まずは、ヨーロッパを守るためにアメリカの都市が核で撃たれてもいいといえる大統領はいない。ましてやヨーロッパじゃないようなところに核の傘などない。これがキッシンジャーの「核兵器とアメリカ外交」(「核兵器と外交政策」)という本なんです。そして1978年か79年に元CIA長官、NATOの南部方面司令官、かつ核兵器の担当だった元CIA長官(ターナー)が、「どこの国に対しても核で守るという約束をしたことはない」と言った。日本に対しては「核の傘」というのはない。というのを読売新聞が書いている。(1986年6月25日付読売新聞)

 だから、残念ながら日本の右も左も、あまり勉強しないで「核の傘」はあると思っている。核の傘はないんです。

 じゃ、私たちはどう生きていったらいいんだろうか。

 去年11月にTBSラジオで、野坂昭如さんが死ぬ2日前にしゃべったセリフがある。知っている人?

 ・・・

 はや師走である。街はクリスマスとイルミネーションでさぞにぎやかなことだろう。ボクはそんな華やかさとは無縁、風邪やらなんやらややこしいのがはやっている。ウイルスに冒されないようひたすらとじこもっている。にぎわうのは結構だが、そんな世間の様子とは裏腹に、ボクは日本がひとつの瀬戸際にさしかかっているような気がしてならない。
 明日は12月8日である。昭和16年のこと。日本が真珠湾を攻撃した。8日の朝、米英と戦う宣戦の勅令が出された。戦争が始まった日である。ハワイを攻撃することで日本の行き詰まりを打開せんとした結果、戦争に突入した。当面の安穏な生活が保証されるならと目を合わせているうちに、近ごろかなり物騒な世の中になった。戦後の日本は平和国家だというが、たった1日で平和国家に生まれ変わったんだから、同じくたった1日で、その平和とやらを守るという名目で軍事国家、つまり戦争することにだってなりかねない。気づいたとき、二者拓一など言っていられない。明日にでも、たった一つの選択肢しか許されない世の中になってしまうのではないか。
 昭和16年12月8日を知る人がごくわずかになったいま、またひょいとあの時代に戻ってしまうような気がしてならない。

 ーーこれが野坂さんの言葉だったんです。だけど、ほとんどこれは報道しませんでした。

 それから、耳をすませると、かなりいろんな人が発言しています。 堀文子さん(画家)、1918年生まれの方ですが。2015年10月11日に、「堀文子 シリーズ私の戦後70年・今、あの 日々を思う」(NHK)で、

どんな雑草でも、自分の力で死ぬまで生きている。
それを見ることが、今の私の刺激です。
自然は誰の力も借りず、自分の出番を間違えずに、ちゃんと、咲きます。

 そう話してから、途中からがらっとトーンが変わる。

非常に危険な状態でありますが、今なら国民が競って反対すればいいんだから。
日本が危険な瀬戸際にいるように見えます。
国家権力に反抗するには相当な勇気と知恵がいります。下手をすると牢獄につながれます。何をするかわかりませんよ、国家が野心を持つと。物ごとが崩れ始めるとガラガラと崩れちゃいます。ですから崩れる前に騒がないといけない。日本、何をするかわからないんです。いま、戦争の記憶を忘れてしまって、今の政府はもう一度勢いのある日本を取り戻したくなっているような気がして、非常に危険だと思います。どんなに軽蔑されても、人の命で戦ってはいけません。

 いま日本は戦う国のほうに行っている。しかし、日本の国の安全のためというのであれば、あるいはそれは肯定できるかもしれない。肯定する余地があるかもしれない。だけど、行こうとしているのは、日本の安全とはまったく関係のないアメリカのため。

 流れはどういうことか。いちばん最初、湾岸戦争のとき、Show the flag と言われた。日本の国旗を立てろ。その次に米国に言われたのが、Boots on the ground. 軍靴を戦場に持っていけ。いまアメリカに言われているセリフはなにか。

 ・・・Shed the blood 血を流せ。

 そして、いま集団的自衛権の方に行った人たちは、血を流せの方向に行ったんです。

 集団的自衛権の話で、国民安保法制懇というのをつくりました。さきほどの憲法学者であるとか、いろんな人たちが入った。そのなかに柳沢協ニさんがいた。イラク戦争にいったときの防衛省官房長官補佐官。 この人が国民安保法制懇のなかで集団的自衛権に反対した。NHKラジオでいっしょになったとき、「孫崎さん、外務省というのはひどいよ。血を流せと平気でいう。私は防衛省の人間だから、そんな制度にはしたくない。だからいま立ち上がっているんだ」

 残念ながら、いまの日本は、最大多数の最大幸福を追求する、そういう政権ではなくなったんです。そしていま安倍政権がやろうとしている非常にコアになる問題は、憲法9条はなかなか直せない。その代わり出てきたのが緊急事態条項。憲法には天災とか自然災害とかそういうものについてどうするかは書いていない。だからそういうのはあったほうがいいんじゃないか。
 
 だけど、災害対策法があって、なんら憲法に書く必要はない。が、災害があるからやらなきゃいけないという。

 問題は、それで何をしようとしているか。それは緊急事態というのを首相が発令する。そのときに政令ーー首相の意向を聞いて、国会でなんの審議もしていないーー政令が法律と同じ効力を持つ。そして国民はそれを守る義務がある。緊急事態のときは国会の解散はしない。

 もう独裁体制をつくろうとしている。なんでこんなことになるのかと思うような危険性のところまで行っている。
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