参院選を目前にしてー孫崎享氏講演録(上)

 外務省元情報局長・孫崎享さんの講演が6月7日、八重洲ブックセンターであり、筆者も聞きにいった。学ぶことはきわめて多い。時流や権力にながされず、孤立を恐れず良心にしたがって発言できるのが真の知識人とすれば、孫崎氏はその名に値するひとりだろう。主流メディアにのりにくい貴重な見識を、一部の者たちの知識におわらせず、多くのひとたちで共有していくことが、いまの政治危機を克服するうえで欠かせないのだと思う。

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孫崎享氏講演(2016年6月7日、東京八重洲ブックセンター)

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孫崎享講演会(下)

 (冒頭聞き漏らしのため一部省略)・・・(後藤健二さん・湯川春菜さん人質殺害事件に触れて)ある政治家がわたしのところに電話をしてきて、「いまわたしのところに仲介してあげますという人が言ってきました。それ官邸につたえてあります」。電話してきた。その人そのご一切そういう発言をどこにもしてませんから、だれがということは申し上げられないが、じっさいに助け出せる方策はあった。

 ということから考えると、この国の政治、安倍外交というのは、本当に日本人のために政治をやっていないと思います。

 朝まで生テレビ、1週間くらい前に出たんです。朝まで生テレビ出るとわかるんですけど、どんどんどんどん、いまの安倍政権を支持する人たちが多くなって、私のようなことを言う人はもういなくなってきている。前は、自民党対リベラル系だったけど、リベラル系のようなところがまた自民党のほうにいっている。
  
 私が発言すると、両隣から「孫崎さんの発言問題あります」、両隣から言ってくる(笑)。というようなことがあったんですけでど、私そこでしゃべったのは、「安倍さんはおじいちゃんの岸信介さんを崇拝していると言っているけれども、彼が言っていることと岸が言っていることはちがう。岸は、すくなくとも外国軍に守ってもらわなければならない・・・独立するために、自分たちの独立を外国軍に守ってもらわなきゃならないというのは真の独立国ではない・・・」と言ったんですね。そしたらすぐに「岸信介のいまと時代がぜんぜんちがう」。そりゃ岸信介の時代といまとはちがう。しかし、外国軍に自分の国を守ってもらわなきゃいけない、そんなのは独立国としてあり得ない、という命題は失われていないんですね。

 
 (米軍)基地の問題。沖縄で20歳の女性が強姦されて殺された。自白したのは、自分の犯行が明らかになることを恐れて殺したと言っている。なんでこんなようなことが起こっているのかというと、それは地位協定に由来するんです。日米地位協定。日米地位協定というものの前に日米安保条約。安保条約、これを1951年に日本はサンフランシスコ講和条約をつくった。つくったけれども、寺崎太郎という外交官、『マリコ』(柳田邦男)という本がありますが、そこに日米開戦のことが書いてあって、寺崎太郎というのは日米開戦のときの北米局長だった。外務省で一番の中核。この人間が、第二次世界大戦おわったあと、短い期間、次官になる。そして彼は、安保条約ができるときに、この3つのなかで、サンフランシスコ講和条約よりも日米安保条約がより重要なんだ。そして安保条約よりも地位協定のほうがーはるかに重要だ。

 安保条約をつくったときにはダレスは、自分たちの好きなだけの軍隊を好きな場所に好きな期間置く、これがわれわれの目的である、ということで安保条約ができた。それを、具体的にどのような形にするかということを書いたのが地位協定。そして、考えてみていただければいいんだけども、イラク戦争があって、イラクの人たちはサダム=フセインを倒したくれた、だからアメリカ軍に大変恩義がある。いまISのことですこしアメリカ軍が入ってきたが、アメリカは途中からいなくなりました。それは地位協定、これにイラクが賛成しなかったんです。なぜならば、主権というものが認められてない。

 いまの地位協定では、(米兵が)公務中に起こした事件というのは基本的に日本側に裁判する権利がない。というような流れだから、地位協定を考えなきゃいけない。見なおさなきゃいけないというのは、ある意味当然のことなんです。

 1993年、ドイツは地位協定の改定を行っているんです。NATO軍駐留補足協定。どんな内容をあらたに加えたかというと、米軍のありようなんです。軍事的重要性と、帰ったときの重要性、プラスを比較して、帰ったときの重要性があれば、ドイツは米軍基地の返還要求を行える。米軍はそれに従うこととする。1993年にやった。

 非常におもしろくて、1993年、おなじように日本でも流れができていた。樋口レポート。ソ連が崩壊したから、私たちは米軍に一辺倒ではなくて、まず国際的協調をやる、そのつぎに米国との協力関係をやるということを樋口レポートにまとめた。これに大変な危機感をもってこの流れをぜんぶつぶした。

 まずは細川護煕さんがつぶされた。樋口レポートつくったときの首相は細川さん。それからこれを・・・次にいうことは単なる事実だけも申し上げておきます。この樋口レポートをやった元防衛次官とそのときの次官、ふたりともガンで亡くなった。西広さんという人ですね。防衛庁の天皇とかいわれていた人。

 そしてこの流れというのがどんどんひどくなって、いま集団的自衛権やろうとしている。

 集団的自衛権というのは、日本の防衛となんの関係もない。たぶんそういう言い方を聞かれることはあまりないと思いますが、樋口という憲法学者の重鎮の人、今日の憲法学者で日本で一番権威のある人、樋口(陽一)という元東大教授なんですが、「他衛権である」「集団的自衛権の本質は他衛権である」。ほかの人を守る権利なんだ。もうひとり、元法制局長官(阪田雅裕氏)は「他国防衛」だと。

 どういうことになっているかというと、「アメリカが守ってくれる、だから集団的自衛権をやらなきゃいけない」ということを言っているんですが、アメリカと日本の関係は、まず安保条約があります。安保条約第5条ーー・

日米安保条約第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。(略)

 ここで、日本の施政下にある地域を外国が攻撃したとき、そのとき日米双方は自分への攻撃とみなして、自国憲法にしたがって行動をとる、こう書いてある。

 それで多くの人は、中国の脅威があるから集団的自衛権をもたなきゃいけないと言いますけど、日本の管轄地に攻撃があったときには、自分への攻撃とみなして憲法にしたがって行動をとるーーということ以上の約束を、今回の集団的自衛権容認でアメリカが約束したことはひとつもありません。
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