「無」

 愛読者各位
 いつもご愛読ありがとうございます。
 恐縮ながら、4月いっぱい所要で休筆いたします。
 ハンセン病施設の大島青松園(香川県)に収容され、過酷な差別と隔離政策にほんろうされながら生涯をすごした塔和子さん(故人)の誌集『記憶の川』(編集工房ノア)をひさしぶりに手にとりました。しばらくの間、心に響く作品を紹介してきたいと思います。
 
 「無」

 手のひらをひらくとなんにもない
 無いことは無限に所有する可能性をもつことだ
 幸も
 不幸もこの手がつかむ
 いつも
 無にしていよう
 無にしている手の中へは宇宙の翼
 もっと大きな喜びが乗る
 私は無から生まれた
 だから無はふるさと
 いつもはじまるところ
 朝の光よ瞬間瞬間生の切り口よ天に吊るした希いよ
 私が
 手のひらをいつも無にしているのは
 あなた達のため
 ああそして
 私の手のひらは生きるよろこびでひとときふるえ
 すべてを無にして
 また差し出すのだ