日本学生支援機構の「奨学金」を「学生ローン」と定義する意味

 日本学生支援機構の「奨学金」の本質は「学生ローン」である。学生ローンは通常の金銭の貸し借りとは異なる特殊なローンである。銀行などがやる普通のローンは収入のない未成年者に300万円を貸すことなどできないが、^「奨学金」はそれができる。しかし、「一括繰上げ請求」という違法行為が横行している。こうした無茶な取り立てがなされないように「学生ローン」の定義を確立し、そこに位置づけるべきである。

 --この意見を私はおよそ5年前から機会あるごとに訴えてきた。2013年、日本の「奨学金」問題に関心のある弁護士や学者らの誘いで共著『日本の奨学金はこれでいいのか』(あけび書房)に執筆する機会をいただいたが、その取材の過程で、卒業して間のない若者にたいして300万円を一括で返すよう請求し、その300万円に年利10%の延滞金をつけた上で裁判を起こすという無謀なことが横行している実態を知り、大問題だとして報告した。
 
 日本学生支援機構の「奨学金」には銀行のローンのような金銭消費貸借契約書はない。あるのは卒業後20年内に月割りで返すという「返還誓約書」である。だから、卒業後1-2年で300万円の弁済を求めるなど、それまでの私の常識ではありえないことだった。

 なぜそんなことができるのか。裁判の内容をよく調べてみると、学生支援機構の詐欺的な手法が浮かび上がった。

日本学生支援機法施行令5条4項にこうある。
 
【学資金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるときは、前三項の規定にかかわらず、その者は、機構の請求に基づき、その指定する日までに返還未済額の全部を返還しなければならない。】

 これをつかって、明らかに支払い能力がない人に対して「一括繰上げ請求」を乱発していたのだ。悪質なことには、訴状に引用された条文から「支払い能力があるにもかかわらず」の文言が削除されていた。

 支援機構に取材すると「一定期間連絡がとれなければ支払い能力があると判断する」との回答があった。法の乱用もはなはだしい。むちゃくちゃである。

 一括で払えという裁判を起こしたところで、当然本人は払えるはずがない。そこででてくる提案が「分割払い」の和解案である。月々1万5000円の200回払いなどの内容で決着する。裁判の間にも300万円に対する延滞金10%(現在は5%)が刻々とついてくる。

 めでたく和解が成立したとして、これが何を意味するのか、おそらく多くの場合当人も気づいていないだろう。 

 和解条項には、「期限の利益」という言葉が出てくる。そして2回以上「返済」(返還ではない)を怠った場合は期限の利益を喪失する、とある。つまり2度滞納したら残債務を一括で弁済しなければいけない。普通のローンに変身したというわけだ。 
 
 施行令5条4項の適用の違法性は明々白々ではないだろうか。入り口は「奨学金ですよ」と猫なで声で未成年者に多額の融資をし、返す段になると狼となって「借りたものは返せ」と迫る。監督規制の仕組みは事実上存在しない。まさに日の丸ヤミ金である。

 通常の借金とは質のことなる「学生ローン」という定義を確立し、学生支援機構の「奨学金」をそこに位置づけ、消費者保護のための規制監督制度をつくるべきである、と私が考え、提言するようになったのはこのような事情からである。学生ローンというのは英語(イングランド語)の「Student loan」から引用した言葉である。 

 私に共著執筆を呼びかけた弁護士や学者たちは、「奨学金問題」を掲げた団体をつくり、私も世加入した。しかし奇妙なことには、「一括繰上げ請求」の違法性を問うべきである、「学生ローン」と定義せよ、という私の案は同会の活動のなかでほとんど黙殺された。集会などにおいて私が発言する機会も次第になくなってきた。議論の上で「取り上げることはしない」と結論づけたのであればまだよいが、議論自体なされることがなかった。

 新聞・テレビに影響をあたえる立場にある団体であったので、結局、「一括繰上げ請求」の問題も「学生ローン」の定義の問題も、新聞・テレビで取り上げられることはなく現在にいたっている。

 私は抗議の意と外部から批判することの必要性を感じて、3年前にこの団体を去った。 

 日本はあらゆる分野で世界の潮流から立ち遅れていると感じる。上に述べた「奨学金」問題でも、絶望的に意識が遅れているのではないだろうか。そんな悪い予感にかられる。

 ためしに韓国の政府系学生支援機関「KOSAP」(The Korea Student Aid Foundation、한국장학재단 韓国奨学財団)のホームページをみた。

http://eng.kosaf.go.kr/jsp/aid/submain.jsp

학자금대출(Student loan)

장학금(schalorships)

 を、はっきり区別していて、それぞれについて、さまざまな種類の制度がある旨説明している。

 日本では、学生ローンも奨学金もごちゃごちゃになったままだ。これでどうやって問題を解決できるというのだろう。悪い予感はおそらく当たっている。

投稿者: miyakatu

ジャーナリスト

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください