時給8万円の増田寛也顧問問題で住民訴訟提起へ

 非常勤顧問として月2回、4時間程度の軽作業で月額35万円の報酬を、杉並区が増田寛也氏(前都知事候補、元総務大臣)に支払った問題で、筆者はちかく返還を求める住民訴訟を東京地裁に起こす。その訴状がほぼ完成したので紹介する。読者各位にご支援をお願いする次第である。また、訴状に関してご意見があればぜひおよせいただきたい。

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訴    状(案)

東京地方裁判所御中

         原告 三宅勝久  
         被告 杉並区長
         
非常勤職員報酬返還請求事件

請求の趣旨

1、被告は、杉並区非常勤職員増田寛也に対して、不当利得35万円および2016年10月7日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2、被告が、杉並区非常勤職員増田寛也に対して35万円の不当利得返還の請求を怠る事実、ならびに2016年10月7日から支払い済まで年5分の割合による金員の請求を怠る事実がそれぞれ違法であることを確認する。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

請求の原因
第一、 当事者 
(1) 原告は杉並区民である。
(2) 被告は杉並区の区長である。

第二、 請求の相手方
 増田寛也は杉並区議非常勤職員(まち・ひと・しごと創生総合戦略担当顧問)の地位にある者である。
 
第三、 違法な公金支出
 2016年9月分月額報酬として被告が増田寛也に支出した35万円は違法・無効であり、増田の不当利得である。よって被告は、同人に対して35万円を返還請求する義務を負う。
 不当利得である理由は以下のとおりである。

(1)事実経緯
1 2016年8月29日、被告は杉並区非常勤職員規則を変更する起案を行った。その内容は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」担当の非常勤顧問職(以下本件顧問職という)を新設し、報酬は月額支給とし、報酬額を月35万円とするというものであった。同月31日、施行日を翌9月1日として上の変更内容の新規則を公布した。(甲1、9頁)

2 本件顧問職の報酬額を月額35万円とした理由として、規則変更にかかる起案文書(杉並区経営政策部が作成したとみられる)には、「当該非常勤職員の職務内容は定例的なものではなく、勤務日や勤務日数を指定した勤怠管理にはなじまないものである」と月額を採用すると説明したうえで、週3日×4週=月12日×3万円=36万円との試算を行った旨明記されている。
(甲2) 

3 被告は新規則公布にあたって周知作業をほとんど行なわなかった。区庁舎正面の掲示板にも新規則についての掲示は行っていない。また区議会にも報告しなかった。結果として、増田氏の顧問就任が新聞で報道されるまで改訂の事実を知らない区議が多数存在した。なお杉並区においては、規則変更の際には区議会に報告をするのが通例となっている。

4 2016年9月1日、新規則が施行され、同日付で被告は増田寛也を本件顧問職に採用した。採用にあたって公募はいっさい行われなかった。また、増田氏以外の人物を検討した事実もない。増田氏の採用条件について、
①非常勤で勤怠管理は行わないこと(甲2)、
②出勤は月2回程度、終日拘束される義務はなく1−2時間前後でもよいこと、
③勤務時間、拘束時間の多寡にかかわらず月額35万円の報酬を満額で払うこと、
 −−を被告は了解していた。

 なお、増田氏は2016年7月の東京都知事選挙に立候補して落選したているが、その際、被告田中良は同氏の選挙応援演説を行うなど、政治的に親しい関係にあった。また、増田氏は北海道と神戸市の非常勤顧問を兼務するなど多忙であり、月12回の杉並区への出勤が不可能であることは明らかであり、被告田中良もその事実を把握していた。 

5 杉並区作成の業務報告書によれば、増田顧問の9月の勤務状況は、区庁舎への出勤が2回、電話が1回の計3回だった。出勤は9月5日と23日で、所要時間は5日が1時間5分、23日が3時間20分と報告された。内容はいずれも区長ら区幹部との面談だった。電話は9月30日に1分未満の通話を1回行った。10月の業務内容の打ち合わせだった。合計の勤務時間は約4時間半だった。
(甲3)

6 10月7日、被告は増田氏に対して9月分の月額報酬として35万円を満額で支給した。(甲1、22頁)

(2)違法性について
1 本件非常勤職員報酬条例の委任規程は違法・無効であり、「特別の定め」は存在しない
 杉並区非常勤職員に対する報酬の根拠は「杉並区非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例」(以下本件非常勤報酬条例という)である。月2回、4時間程度勤務しか行っていない非常勤職員に月額35万円の報酬を支給した根拠である本件非常勤職員条例は、地方自治法203条の2第2項に反して違法・無効である。
 非常勤職員の報酬は原則として日額支給であり「条例で特別の定め」をした場合に限って日額以外の支給方法も可能である、ただしその議会に付与された裁量権は無限大ではない、というのが地方自治法203条の2第2項の立法趣旨である。

【地方自治法】
203条の2
第1項  普通地方公共団体は、その委員会の委員、非常勤の監査その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
第2項  前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。

 当然のことながら本件非常勤顧問職に対する報酬も原則は日額でなければならず、月額などそれ以外の支給方法を採るためには「条例で特別の定め」をすることが必須となる。
 そこで、本件非常勤報酬条例に「特別の定め」が存在するかどうかを検討する。
 条例本文をみると、本件顧問職を設置すること、またその報酬支給方法を月額にすること、さらにその額を35万円とすることについて、いずれも明文規程はない。同条例が定めているのは、日額(上限3万円)と月額(同35万円)、年額(同80万円)、時給(同4000円)の各上限額のみである。

【杉並区非常勤職員の報酬ならびに費用弁償に関する条例】
第2条 1 職員に対する報酬の額は、勤務1日につき3万円を超えない範囲内において、任命権者が定める額とする。
2 前項の規定にかかわらず、任命権者は、特に必要と認めた場合においては、報酬の額を区長と協議して、時間を単位とする額・月額又は年額で定めることができる。この場合における報酬の額は、時間を単位として定める場合にあつては1時間当たり4000円、月額として定める場合にあつては35万円、年額として定める場合にあつては80万円を超えてはならない。
(甲1、25頁)

 そして、日額以外の支給方法の採用やその金額をどうするかについて本件非常勤報酬条例は、「任命権者」が「区長と協議して」定めることができる旨規程している(以下本件委任規程という)。なお、本件顧問職の設置を含む非常勤職の新設・撤廃等については、本件非常勤報酬条例のなかに任命権者らに委任を明示した条文はみあたらない。
 さて、本訴訟の前置手続きである住民監査請求における被告の主張をみると、この本件委任規程の存在を根拠にして、本件顧問職に月額報酬を採用することや額を35万円にすることを、条例ではなく規則改変によって定めたことは適法であり、法が求める条例での「特別の定め」は存在する旨述べているようである。(甲1、23頁)
 しかしながら、非常勤職員の報酬が職責に対する純粋な反対給付であることをうたった地方自治法203条の2第2項の立法趣旨を踏まえれば、本件非常勤報酬条例に適法な「特別の定め」存在しないというべきである。
 本来日額原則である非常勤職員の報酬を月額にすることやその額の決定は、形式的な事務ではなく、区にとっての重要事項である。つまり、月額の採用や額の算定は、地方自治法203条の2第2項ただし書きが議会に付与した裁量権の範囲内で行わなければならず、慎重な検討を要する問題である。逸脱・濫用の恐れがある課題であり、だからこそ議会における議決という民主的な手続きをへて慎重に検討することを法は求めているのである。ところが、本件非常勤報酬条例が条文で定めているのは月額報酬の上限額にすぎない。月額報酬の採否や額の決定をすべて任命権者らに委任している。これは実質的な白紙委任にあたる。
 杉並区においては、過去に、勤務実態のない非常勤選挙管理委員に月額報酬が漫然と支給されたことがあり、その是非をめぐって住民訴訟が提起された。被告は最高裁まで争ったが敗訴が確定し、報酬支給の違法性が明らかとなって条例改正に至った。同住民訴訟の一審判決は、法203条の2第2項ただし書きの立法趣旨についてこう述べている。
〈…委員会の委員を含め、職務の性質、内容や勤務態様が多種多様である普通地方公共団体等の非常勤職員に関し、どのような報酬制度が当該非常勤職員に係る人材確保の必要性等を含む当該普通地方公共団体等の実情等に適合するかについては、各普通地方公共団体等ごとに、その財政の規模、状況等との権衡の観点を踏まえ、当該非常勤職員の職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸般の事情の総合考慮による政策的、技術的な見地からの判断を要するものということができる。〉
〈…203条の2第2項は、普通公共団体の委員会の委員等の非常勤職員について、その報酬を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で、条例で定めることによりそれ以外の方法も採り得ることとし、その方法及び金額を含む内容に関しては、上記のような事柄について最も知り得る立場にある当該普通地方公共団体等の議決機関である議会において決定することとして、その決定をこのような議会による上記の諸般の事情を踏まえた政策的、技術的な見地からの裁量権に基づく判断に委ねたものと解される。〉(甲2、37頁)

 上記判決が示すところをみても、日額以外の支給方法を採用する場合には議会において慎重な検討をせよ、というのが地方自治法203条の2第2項ただし書きの趣旨であることは明白である。本件非常勤報酬条例は、この「特別の定め」を任命権者らに委任し、規則変更でよしとしている。これは地方自治法203条の2第2項ただし書きの立法趣旨を没却するものであり、違法・無効である。

2 (予備的主張1)勤務実態が乏しい者に漫然と月額35万円を支給する本件報酬条例は議会の裁量権を逸脱しており、違法・無効である。
 仮に、本件支出にかかる本件非常勤報酬条例に適法な「特別の定め」が存在したとしても、月の出勤回数が2回しかない者に漫然と月額35万円を支給することを可能とした本件条例は、地方自治法203条の2第2項ただし書きが議会に付与した裁量権を逸脱しており、違法・無効である。
 本件非常勤職員報酬条例は、日額報酬の上限額を3万円と定めている。これは、非常勤職員の報酬というものが純粋に職務の対価であって、いわゆる生活給としての趣旨はなく、原則日額である――とする法の趣旨を踏まえ、杉並区の各種事情を考慮して定めた上限額である。
 そして同条例はまた、月額報酬については上限額を35万円と定めているが、これが日額の上限が3万円という金額を基準に算出されたことは明白である。すなわち、本件規則改変にあたって杉並区政策経営部が作成した文書(甲2)には次の記述が認められる。

〈…当該非常勤職員の職務の性質、内容、職責や職務態様等を考慮し、月額での報酬額の設定とする。なお、月額報酬額の積算根拠は以下のとおりである。

 【月額報酬額の積算根拠】
 日額3万円※1×週3日×4週=月額36万円※2
 ※1 杉並区非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例第2条に定める日額上限
 ※2 杉並区非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例第2条に定める月額上限額は35万円 〉

 月12回程度の勤務が想定されるとして月額35万円と算定しているのである。
 しかし、じっさいの増田氏の本件顧問としての勤務実態は、2016年9月の場合、わずか2回の出勤で4時間あまりの勤務時間にすぎなかった。月12回程度出勤するはずが、その6分の1程度だったのである。
 職務実態は乏しいといわざるを得ないが、それでも漫然と月額35万円の報酬を支給したのである。その支給根拠は本件非常勤報酬条例にある。この条例は地方自治法203条の2第2項ただし書きが議会に付与した裁量権を逸脱しており違法・無効である。

 
3 (予備的主張2)増田寛也氏のために本件顧問職を創設し、同氏を採用した被告の行為は、首長の裁量権を逸脱しており違法・無効である。
 仮に本件報酬条例が適法だとしても、月12日程度の勤務を想定して月額35万円と定めた本件顧問職に、その6分の1程度の勤務しかできないことを知りながら増田寛也氏を採用した被告の行為は、首長の裁量権を逸脱しており違法・無効である。 
 2016年7月に投開票が行われた東京都知事選挙に増田氏が立候補した際、被告・田中良は応援演説を行うなど親しい関係にあった。顧問に採用したのは落選してから1カ月後のことである。これらの事実をみれば、本件顧問職の創設と増田氏の採用に、被告の個人的な意思が強く反映していることは明白である。
 被告は、月額35万円の報酬に値する職務が期待できないことを知悉しながら親しい関係にある増田氏を採用し、勤怠管理すらせずに月額35万円の報酬を支給させた。同年10月の増田顧問の出勤回数が3回にとどまっていることをみても、月2−3回の勤務しかしないことを被告は十分に了解していたとみられる。
 また、公募などの方法で本件顧問職の適任者を広く募ったという事実もない。被告は増田氏のために顧問職を新設し、月額報酬が想定している仕事を十分しないことを知りながら増田氏を採用し、十分な勤務実態が期待できないにもかかわらず漫然と月額報酬を払ったのであるから、その行為の違法性は明白である。

4 (予備的主張3)職責を果たしていないにもかかわらず非常勤職員条例3条3項の不支給規定を適用せず、漫然と月額35万円を支給したのは、首長の裁量権の濫用にあたり違法・無効である。
 非常勤職員条例3条3項は、以下のとおり、非常勤職員に十分な勤務が期待できない場合は月額報酬を不支給にできる旨定めている(以下本件不支給規程という)。

【杉並区非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例】 、
第3条3項 月額の報酬を受ける職員であって任命権者が定めるものが月の初日(月の中途においてその職に就いたときにあっては、その職に就いた日)からその月の末日(月の中途においてその職を離れたときにあっては、その職を離れた日)までの間にわたりその職責を果たすことができないと認められるときは、その月分の報酬を支給しない。
 
 同不支給規定がもうけられたのは2016年3月16日であるが、選挙管理委員報酬をめぐる訴訟で被告の敗訴が確定した(甲3)ことを受けて、条例の瑕疵をただすための改正であった。
 本件顧問職の増田氏は、月2〜3回程度の仕事しか期待できないのであるから、月12回程度の勤務を想定した同顧問職の職責を果たすことができないことは明らかである。しかしながら、被告は本件不支給規程を適用せず、漫然と月額35万円を支給した。これは首長の裁量権濫用にあたり、支給は違法・無効である。

監査請求前置について

 上記の違法な公金支出について、原告は2016月11月9日、地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を杉並区監査委員に申し立てた。これに対して同監査委員は同年12月22日付で棄却し、同月30日までに原告に通知した。この監査結果はすべて違法であるので本訴訟を提起する。

投稿者: miyakatu

ジャーナリスト

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