労働法は被雇用者が守るもの?/自民杉並区議会派が事務員に提出させた「誓約書」にみる恐るべき知的劣化

 自民党政権によるなりふり構わぬ憲法破壊がここでもおきていたーーそんな戦慄を覚えるような事実に、またひとつぶつかった。

 杉並区議会自民党(脇坂たつや幹事長)が政務活動費をつかって事務員を雇用する際、被雇用者の女性に対して「労働法令を遵守」せよ、という趣旨の誓約書を提出させていたのだ。

 労働法を守る義務があるのは雇用主であって労働者ではない。民主主義の基本的仕組みを理解していないとしか思えない文面で、地方自治の専門家ならずとも、義務教育を受けた人ならただちに「おかしい」と思わなければいけない場面である。

 こんなものが堂々と通用していること自体が、いちじるしい憲法軽視と知的劣化が杉並区議会の与党の間に広がっていることを雄弁に物語っている。ガソリンと軽油、灯油の違いすら知らないド素人が旅客機の操縦席に居座ったまま好き放題をやり、乗客の運命をもてあそんでいるようなものだ。

 問題の文書は、「機密保持に関する誓約書」と出されたA4版1枚のワープロ書きで、日付は2014年3月20日付。宛名は「杉並区議会自由民主党 代表富本卓」とこれもワープロで印刷されており、誓約者の欄に直筆で事務員の名前・住所が書かれている。自民党会派で作成して、署名・提出を求めたものみられる。
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 問題の文面はその冒頭、第1条としてこうある。

 第1条 労働法令を遵守し、次に示される貴事務局の機密事項について、貴事務局(総務担当者)の許可なく、不正に開示又は不正に使用しないことを約束いたします。

①会派・団会議における発言の内容
②自由民主党党員名簿及びその記載内容
③杉並区議会自由民主党内の会話や発言等及び書面に記載された内容
 
 以下、「機密」を厳守するよう様々な条文がつづく。「不正」という文句もたびたび出てくる。だが一読して筆者は頭をかかえた。不正とはいったい何を基準に不正なのかわからない。そして冒頭の「労働法令」を遵守せよとはどういうことか。

 日本国憲法が基本的人権を保障するなか、労働基準法や労働組合法、労働安全法、男女雇用機会均等法などの労働関連法は、すべて労働者の権利を守るという趣旨で立法されている。労働者に守るべき義務を課すなどという条文も趣旨もないはずだ。

 念のため、東京労働相談情報センターに電話で尋ねてみた。

 ーー労働法令を遵守せよ、という誓約書を被雇用者に出させているのだが、被雇用者が守らなければいけない法令というのがあるのでしょうか。

 相談電話に応答した職員は、とまどいぎみに言った。

「そもそも労働法令というのもよくわかりません。労働基準法、労働組合法、労働安全衛星法、男女雇用機会均等法、最低賃金法のことでしょうか。これらはすべて被雇用者の権利を守るもので、雇用主に義務を課しているものです。h被雇用者に法令を遵守せよというのは意味がわかりませんね」

 誓約書を作成し、署名させて提出させたのは、自民党会派だ。署名当時の代表者は石原伸晃衆議の秘書をやったこともある富本卓議員である。伸晃氏の政治資金パーティのパーティ券を大量に政務調査費で買っていた一人である。筆者は「誓約書」の真意をたしかめるべく、杉並区議会の自民党会派の部屋に電話をした。応答した事務員は、あいにく応答できる議員はいないと答えた。富本議員、あるいは幹事長の脇坂たつや議員、あるいは説明できる議員に申し送りしてほしいと伝えて、電話をきった。

「杉並区の専門家」地方自治のプロを自称する最大会派である自民党杉並区議が、労働法令がなんであるかという基本的な認識すらなかったとすれば、ことは深刻である。

 前杉並区議会議員の奥山妙子氏が言う。

「労働基準法や労働組合法などの”労働法令”は被雇用者の権利を守るためのものです。それを雇い主が被雇用者を縛るものであると履き
違えているのではないでしょうか。安倍政権は、権力を憲法で縛るという立憲主義の意味を理解せず、逆に憲法とは権力が国民を縛るものだと勘違いしていますが、それに通じるものを感じます。それとも単に、さぼらず働けと言いたいだけなのでしょうか」
 
 24日17時現在、富本議員からも脇坂議員からも連絡はまだない。また議会事務局にも見解を求めたが、同様に返事はない。 

投稿者: miyakatu

ジャーナリスト

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